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東京地方裁判所 昭和61年(ヨ)2381号 決定

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別紙当事者目録記載のとおり

主文

申請人らの本件申請はいずれもこれを却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

理由

一  申請人らは「被申請人が申請人らに対し、別紙配置転換一覧表の「発令年月日」欄記載の日付をもってなした同表「兼務発令内容」欄記載の発令及び同日付をもってなした「上野車掌区人材活用センター担当に指定する」との担務指定通知によって行った配置転換の意思表示の効力を仮に停止する。申請費用は被申請人の負担とする。」との裁判を求めた。

二  本件疎明資料によると、被申請人は、日本国有鉄道法に基づき設立された公共企業体であること、申請人らの右兼務発令前の所属・職名は別紙配置転換一覧表の「発令前の所属・職名」欄記載のとおりであり、申請人らはいずれも国鉄労働組合に所属し、申請人松尾は昭和五六年一一月一一日以降大宮車掌区浦和車掌支区分会書記長の地位にあるもの、申請人内山は同年同月以降同分会分会長の地位にあるもの、申請人中田は同六一年一月以降上野車掌区分会青年部書記長の地位にあるもの、申請人平井は同六〇年一月以降同分会青年部長の地位にあるもの、申請人片田は同年一二月以降池袋車掌区分会青年部部長の地位にあるもの、申請人鳴海は同五六年一二月以降同分会書記長の地位にあるもの、申請人大亀は同五七年一二月以降同分会分会長の地位にあるもの、申請人堀口は同四七年から同六一年まで大宮車掌区分会書記長の地位にあったもの、申請人小野瀬は同五八年以降同分会分会長の地位にあるもの、申請人樫山は同五五年一月以降国鉄新橋支部池袋地区共闘会議事務長、池袋車掌区分会執行委員・業務部長の地位にあるもの、申請人市川は同五八年一〇月以降同六一年まで新橋支部執行委員の地位にあったものであること、被申請人は申請人らに対し、別紙配置転換一覧表の「発令年月日」欄記載の年月日に同表「兼務発令内容」欄記載の兼務発令をなし、さらに同日「上野車掌区人材活用センター担当に指定する」との担務指定をなしたこと、もっとも、被申請人は本年四月一日の新事業体移行に伴う最後の準備作業に入っており、右人材活用センターは本年三月上旬に解散することを予定しているので、申請人らに対する右担務指定もそれまでの間のことにすぎないこと、以上の事実が一応認められる。

ところで、当裁判所は、本件仮処分申請は、被保全権利の存否についての判断を暫く置き、結局のところ、保全の必要性についての疎明がなく、かつこれに代えて保証を立てさせることも事案の性質上相当でないとの判断に達した。

以下、その理由について述べる。

申請人らが主張する保全の必要性は三点ある。

先ず第一点は、被申請人の分割・民営化により発足する新会社は被申請人の労働契約上の権利・義務関係を引き継がず、独自の基準で労働者を採用することとされている(日本国有鉄道改革法二三条)ところ、申請人らはいずれも新会社に採用されない可能性が強く、この場合、申請人らが清算法人を被告として本案訴訟を提起し勝訴判決を得たとしても、この債務名義は新会社に対し何らの効力を有しないから、回復困難な損害を被るというにある。しかしながら、申請人らが新会社に採用されるか否かということと本件仮処分申請が認容されるか否かということとは何らかの関連性があるとは考えられず、また、これを認めるに足りる疎明もない。

したがって、申請人らのこの点に関する主張は理由がない。

次に第二点は、申請人らは従前支給されていた、年齢・経歴によって異なるが、一か月二万円ないし五万円の各種手当が支給されなくなって生活上深刻な実害が生じているというにある。しかしながら、本件疎明資料によれば、申請人らについては夜勤手当等の付加給たる基準外賃金につき若干の減少がみられる(ただし、申請人平井は増額となっている)ものの、支給額に占める減額率は最大で申請人中田の七パーセント(担務指定発令前後三か月間の支給総額の差額は三万八七五七円)、最少で申請人内山の〇・七パーセント(同様の差額は五七六一円)であり、申請人平井を除くその余の申請人らはその間にあって、申請人ら平均で四・一パーセントにすぎないことを一応認めることができる。

してみると、基準外賃金の減少となった申請人平井を除くその余の申請人らについては、その減少が申請人ら主張の如く申請人らの生活上に深刻な実害を生じさせているなどとは到底認めることができない。

したがって、申請人らのこの点に関する主張も理由がない。

最後の第三点は、申請人らは分会役員としての組合活動が事実上できないという著しい不利益を被っており、その結果、組合組織にも回復困難な損害を被っているというにある。申請人らの所属組合における地位については前記認定したとおりであり、申請人ら作成の陳述書等には、組合活動上の支障が生じているという趣旨を記載したものもあるが、その内容をみると、申請人らはいずれも日勤となったため組合員と常時接触することができなくなったとか、組合員と話す機会が減少したなどというものである。しかし、仮りに申請人らに右のような支障が生じているとしても、この程度のことは特に考慮に価するほどの組合活動上の支障であると認めることはできない受忍すべき範囲内のことであるといえるし、また、申請人らが勤務時間外の組合活動を制限されているという疎明はないのであるから、申請人らは勤務時間外の組合活動を従前と全く同様になすことができるものと考えられ、また、なしているものと推認される。

他に申請人らのこの点に関する主張を認めるに足りる疎明はない。

したがって、申請人らのこの点に関する主張も理由がない。

三  よって、本件申請はいずれもこれを却下することとし、申請費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 林豊)

別紙 当事者目録

申請人 松尾清晴

同 内山政利

同 中田貢

同 平井秀夫

同 片田秀夫

同 鳴海由光

同 大亀孝

同 堀口邦彦

同 小野瀬勝秀

同 樫山富次

同 市川貞夫

右訴訟代理人弁護士 岡村親宜

同 古川景一

同 望月浩一郎

同 畑江博司

同 上柳敏郎

同 玉木一成

同 須納瀬学

同 山口廣

同 海渡雄一

同 東澤靖

同 清水洋

同 安田耕治

被申請人 日本国有鉄道

右代表者総裁 杉浦喬也

右訴訟代理人弁護士 茅根煕和

別紙 配置転換一覧表

〈省略〉

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